マザコン彼氏の事情
 仕事が終わり、わたしは真保ちゃんとロッカーで着替えた。
 楽しみ。
 焼き鳥を食べるのもだけど、イケメンに会えるのも。

「それじゃ、行きましょうか」
「うん」

 更衣室を出て、一階のロビーを歩いていると、向こうから龍くんが帰って来るのが見えた。

「お疲れ様です」
「お疲れ。今日は早いんだね」
「これから真保ちゃんとデートなの」
「そう。だけど、あまり遅くなるなよ。夜道は危ないから」
「うん。それじゃまた明日」
「あ、待って。アドレス交換しとこう。家に着いたらメールして」
「わかった」

 やっと教えて貰えたアドレス。
 真保ちゃんとデートって言わなかったら、まだ教えて貰えなかったのかな。
 でもまあこうしてゲット出来た訳だし、今日は真保ちゃんとの夜を楽しもう。
 わたしは真保ちゃんの腕を取ると、開いたドアから外に出た。


「いらっしゃいませー」

 のれんをくぐると、威勢の良い声が聞こえた。
 声の主を探すと、真保ちゃんが言った通りのイケメンがいた。

「こちらの席へどうぞ」

 案内された席に腰を下ろす。
 時間が早いので、サラリーマンの姿は少なめだ。

 真保ちゃんは、とりあえずビールを注文し、焼き鳥の盛り合わせも一緒に頼んでくれた。

「じゃっ、お疲れ様です」

 真保ちゃんのジョッキに合わせる。
 カチリと音がして泡が揺れた。

「ぷはー。あー美味しい」

 仕事帰りのビールはいつ以来だろう。
 もうずいぶんご無沙汰している。
 家で飲む缶ビールとはやっぱり美味しさが違うな。

「岡嶋さん、さあ好きなの食べて食べて」

 真保ちゃんから勧められ、わたしは好物の鳥皮を頬張った。

「美味しい!」
「なかなかでしょ?」
「うん。ほら、真保ちゃんも食べて」
「頂きます」

 彼女は豚バラを手に取る。
 早くも2本目の串に手を出したわたしは、足りるかな・・・と心配になった。
 
「岡嶋さんって、凄く美味しそうに食べますね」
「だって本当に美味しいんだもん」
「良かった。やっぱり一人で食べるよりも、話しながら食べた方が美味しいですね」
「うん、そうだね。ところで真保ちゃんさ、栗原くんの事、どう思う?」
「いきなりですね。でも、実は岡嶋さんを誘ったのは、彼の件なんです」
「えっ? どういう事?」

 真保ちゃんは、ジョッキのビールを半分くらいまで飲み干した。
 
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