好きが涙に変わって溢れてく。
力いっぱいに頬を叩かれ、バシンとトイレの中全体に鈍い音が鳴り響く。
写真のことを考えると、もう何も言えない。
「痛い目にあいたくなかったら、黙って言うこと聞いてればいいのよ」
捨てセリフを残し、明菜は出て行った。
私もすぐに立ち上がり、鏡を見る。
赤くなった頬にそっと触れた。
「……っ、ふ」
自然と溢れ出てきた涙が、一体何を意味するのかわからない。
私、いつからこんなに泣き虫になったんだっけ?
心もこんなに弱いはずなかったのに。
やっぱり私は、明菜には勝てないんだ。
黙って従うしかないんだ……
トイレから出て廊下を歩いていると、運悪くバッタリ魁と出くわしてしまった。
「……片桐?」
私の顔を見て、異変に気付いたのかもしれない。
隣にいる遼也も、少し驚いているようだ。
ダメ。魁と喋ったらいけない。
すぐに目を逸らし、私は横を通り過ぎた。
「おい、片桐‼」
手を掴まれて、周りの視線を感じた私は瞬時に腕を振り払う。
「離してよ‼」
心配してくれたの?
私のことに、気がついてくれたの?
泣き顔を見られない為に必死で、だけど絶対に声でわかってたと思う。
急に叫んだから、魁も遼也も驚いていた。
自分のしたことにハッとして、最低だと思ったけどそんな風に考える暇もない。
「どうしたんだよ、お前……、ここの所ずっと様子変だぞ?」
「何でもないから放っといて」
魁は悪くない。
嫌なら嫌になってくれてもいい。
あの写真を、魁には絶対見られたくないから。
冷たく言い放ち、私は走って魁の元から逃げた。
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