好きが涙に変わって溢れてく。

明菜の笑顔よりも、あいつの笑顔の方を見てしまうのは何でだ?



俺には明菜がいるのに。


明菜は俺の彼女で、それだけで満足なはずなのに。




「廊下で歩いててもいつも目に入って、からかうのが楽しくて、片桐を見つける度にちょっかいかけてた」



いつも怒ってばっかりだけどそれが面白くて、たまにくだらない話であいつと2人で盛り上がって。


あいつといる時は、常に笑ってた。




「けど、明菜と上手くいくようになってからそんな時間がどんどん少なくなって。いつの間にか、すれ違っても目も合わさないようになって」



もうあんな風に過ごせないんじゃないかって思ったら、無性に寂しくてたまらなかった。



「俺には明菜がいるのに、そんな風に思うなんてどうかしてるって思ってたけど、初めてあいつの涙を見た時、一日中頭の中はあいつの事でいっぱいだった」



どうして泣いてるのか理由が知りたかったけど、それよりも早く笑ってほしいってそればっかりだった。


あいつにはずっと笑っていて欲しかったから。



笑顔の片桐が一番いいと思ったから、そうなる為には俺に何が出来るだろうって……



「好きな人がいるって知ってたから、そいつとうまくいったらまた笑顔に戻るんじゃないかと思って、協力しようとした。でも今思うと、それは本心じゃなかった」



蕪城尊琉の存在は、俺にとって大きかったんだ。




「あの男と一緒にいる所を見るようになってから心に穴が空いたような感じで、一緒に笑ってたり楽しそうにしてる所を見ると、寂しいっていうよりも虚しい気持ちになったんだ」

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