紬ぎ、紡がれ、君に恋して。
「痛ッてェー・・・」
男の子は想像外の強い蹴りで少し後ろに飛ばされてしまった。
少し申し訳ないなと心の内で思っていたら、その男の子は俺にわけのわからない宣戦布告をして走り去ってしまった。
男の子に乱暴に扱われた女の子は、地面に倒れこんでいた。
「紬ちゃん!紬ちゃん!!」
俺は必死に彼女の小さな肩を揺さぶる。
「ん・・いっくん・・・大丈夫だよ・・・」
彼女はゆっくりと立ち上がり、少し泥を払った。
「・・・いてて。・・・いっくん、ありがとう。いっくん、すごかったよ」
俺はその時、とてもうれしかったことを今でも覚えている。
俺の体が、意識が、彼女に吸い込まれそうなくらい、気持ち悪いくらいに、胸が張り裂けるくらいに嬉しかった。
そして、次に発する彼女の一言が俺の人生を覆すことになる。
「いっくんは、誰よりも強くて私のあこがれのヒーロー、だよ。いっくんのボール、テレビのサッカー選手みたいに輝いてたよ。いっくんはサッカー選手の希望の星だね」
何も持っていない俺が、無力の俺が、君の一言で人生が嘘みたいに変わったんだ。
俺が君のヒーローだったら、君は俺の心のヒーローだ。
俺はこいつのために、こいつを守るために、サッカーでプロになって、君だけのヒーローになりたい。
これが俺の人生で初めての目標だった。