紬ぎ、紡がれ、君に恋して。
今夜の泊まれる場所を確保できた途端にどっと疲れが湧き上がってきた。
おねねさんに案内されたお部屋に入った途端に床に倒れこむ。
おねねさんがあらかじめ敷いてくれた布団は少し古臭いにおいがした。
私はタイムスリップしちゃった訳だけど…
深く沈んでいては、だめだよね…
どういうルーツでこうなってしまったのかは考えてもキリがない。だから、今はどうやって元の自分に、世界に戻れるかだけを考えて生きよう。
私は立ち上がって部屋を見渡した。
目に付いた紙と筆を自分のもとに寄せ、慣れない筆で自分の設定をなるべく細かく、たくさん書いてみた。
勝手に名前を変えてしまったこの人には悪いけれど、この人には何か私にして欲しかったことがあるはず。
なんとなく、だけどこの人は、私の前世じゃないかって思ってる。
だから、とりあえず自分はどういう仕事をしてきたのか、歳は幾つなのかなど、個人的な情報は全て私が書き換えることにした。
まず、仕事については、この服装からするに、庶民くらいの立ち位置だということがわかる。
ほどほどにボロくさい着物だしね…
仕事も有り金も多分、そこまで裕福ではなかったはず。…だから、うーん…。
コンコン
頭を抱えて悩んでいるところに扉を叩く音がした。
「ねねです。夕餉の時間どす」
夕餉…夜ご飯、かな…
「わかりました。今行きます。」
私は紙をさっと折りたたんで懐にしまって部屋を出た。