紬ぎ、紡がれ、君に恋して。
翌日、まだ日の出前に目が覚めた。
窓を覗くと、人がもうぱらぱらと外に出ているのがわかる。
京の朝はとても早いなあ…
向こうの山を見るも山の先端がぼやっと明るくなっているだけでまだ少し薄暗い。
襖をそっと開ける。おねねさんはまだ寝ているようだ。
私は足音をできるだけ立てずに水場に向かった。
ひんやりと体に染みる冷水で顔を洗ったあと、少し外に出て見ることにした。
外では飛脚が朝から仕事をしていたり、女の人が野菜を洗ったりしていた。
私は羽織りを着て薄暗い道を少し歩いてみた。
ここは、同じ日本のはずなのに時代が違うからすごく異世界にいるみたいに感じる。
1人が少し物寂しかった。
もしかしたら、もうお父さんにもお母さんにも会えないかもしれない。
学校の友達にも…先輩にも。
そう思うと涙がじわじわと溢れてきた。
「おい、そこのお前、大丈夫か?」
上のほうから聞きなれない声がした。
少し怖そうな男の人の声。
顔を上げると、明らかに身分の違う風格をした男の人がいた。
歳は、同じくらいだけど、格好からして身分は私やおねねさんより確実に上だ。
これは…切腹されたりするんじゃ…
そう考えた瞬間に咄嗟に目をつぶった。
「…俺は別に何もしない。大丈夫そうなら行くぞ。さらば」
そう言って男は私のそばを通り過ぎた。
背が高くて、あまり顔は見ていないけど、なかなか顔立ちもよかった。
朝日が昇り始めたのを見て、私は家に戻った。