紬ぎ、紡がれ、君に恋して。
もう肌寒くなってきた公園にボールのはねる音だけが物寂しそうに響く。
辺りを見回すともう人影もなく、暁色の空はもう消えかけていた。
ポン・・・とやけに軽い音を境にボールのはねる音がやんだ。
「先輩、お疲れさまでした。」
七瀬先輩にあらかじめ作っておいたスポーツドリンクを渡す。
「ありがと。・・・なんか修正したほうがいい部分とかあった?」
私はノートを取り出して、七瀬先輩のページを開く。
入部した時から私は部員一人一人の欠点と得意技をなどをこのノートに書き留めている。
そしてこの練習についても気づいたことを何点か書き記しておいたのだ。
「えっと、先輩はたまにボールの安定感がなくなる時があるんです。それは疲れからなのかもしれませんが、安定感がなくなった後に必ずペースやコントロールが乱れているので、安定感を意識すること、もしも安定感がなくなったとしても慌てずに、焦らずに安定感を取り戻すこと・・・ですかね。」
「そう。ありがとう。」
汗をいっぱいかいた七瀬先輩は何故か私の顔をじっと見つめていた。
「・・な、なんですか?顔に何かついてますか?」
あまりにも見つめられると恥ずかしくなったから、タオルで汗を拭うようにして誤魔化した。
「いや、別に。・・・さすが、黎が見込んだマネージャーだなあと。」
「あ、ありがとうございます。」
七瀬先輩にそんなこと言われるのは初めてで、驚きと嬉しさがこみあげてきて、でもやっぱりなんか照れ臭くなって、思わずタオルで顔を隠してしまう。
誰もいない公園はとても静かで、心臓の音すらも先輩に聞こえてしまうかドキドキした。