紬ぎ、紡がれ、君に恋して。


遠い昔、もう何年前かも定かではないあの日に、俺は「紬」という名の女の子と遊んでいたことがある。


遠くから越してきた俺を、隣に住むその子は温かく受け入れてくれた。



その子とは毎日、砂場や滑り台、いろんなことをして遊んでいた。




そんなある日。




「あっ!みて、あそこにボールが落ちてるよ!」


そう言ってあの子は誰かが忘れていったであろう、古びたサッカーボールを持ってきた。




「・・・紬ちゃん、いいのかな?勝手に使って・・。」


「だいじょーぶだいじょーぶ!元に戻しておけばいいだけでしょう?」



そのころの俺は、引っ越し前の友達の影響か、外遊びにはあまり興味がなかった。


もちろん、「サッカーボール」というものに触れたのもそれが初めてだった。



「サッカーっているのはボールを蹴りあいっこする遊びだってお父さんが言ってたよ!蹴りあいっこしてみようよ!」


あの子は目をひときわ輝かせながら俺の方を見る。


俺は、いいよとしか言わざるを得なかった。
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