クールな社長の溺愛宣言!?
「そのプロジェクトの問題点は?」

「は、はいっ! 恐らく先方のシステムですと……」

 厳しい声だったが、話の先を聞こうとしている。彼は社長の好きなタイプだ。いや、決して変な意味ではないのだけれど、一年半みっちり社長のそばにいて気がついた。

 私も最初は、ぶっきらぼうで冗談のひとつも言わない、言葉が辛辣でやさしさのかけらも感じられない社長の傍で、毎日ビクビクしながら働いていた。一生懸命作った書類も「やり直し」の一言だけで、つき返されたりもした。

 こんな調子じゃ最短二時間で秘書がいなくなったというのも、うなずけた。

 あのころの私は、社長を見返したいという思いだけで、一心不乱に仕事をしていたように思う。しかし歯を食いしばって仕事をこなしていくうちに、彼の要求していることが理解できるようになり、自分自身の成長を感じられるようになった。

 冷酷そうな彼だったが――いや、実際冷酷なのだけど――意外や意外、人を見る目は確かだった。単に仕事の結果だけを追い求めるのかと思いきや、企画段階から積極的に意見を交わし、面白そうだと思えば、派遣だろうがアルバイトだろうが、どんな相手の話にもきちんと耳を傾けた。

 だからこそ、私も厳しく叱られながらも彼のそばでやってこられたのだと思う。

 いや、今となっては、出社初日に社長秘書の話を断らなくてよかったと、心底思っていた。

「次」

 チラリと後ろに座る私に視線を向け、手元の資料を手渡してくる。私が言葉なくうなずくと、次の資料をサッと見てから、発言者に鋭い視線を向けた。
 
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