クールな社長の溺愛宣言!?
「だから、邪魔だ」

 そう言うと、彼はきょとんとしている私の腕の辺りを強引に押して横にどかすと、先に進んだ。

 その不躾(ぶしつけ)な態度にあっけに取られた私は、しばし呆然(ぼうぜん)と立ちつくしてしまう。

 前をよく見ていなかったこちらが悪いとはいえ、謝っているのに『邪魔だ』なんて、いくらなんでも失礼すぎる。

 思わず後ろを振り返って相手を見たが、ポケットに手を突っ込んだまま歩み去る背中しか見えなかった。

 堂々と歩く姿は立派なのに、あんな振る舞いをするだなんてもったいない。

 ――でも……どこかで見たことがある気がするんだけど、どこでだったっけ?

 なかなか思い出せず、すっきりとしない。

 しばし考え込んでからふと腕時計を見ると、時刻は既に十四時を過ぎている。私は慌てて歩きだした。

 ――あんな失礼な人のことに時間を使うより、早くお母さんに報告しなきゃ。

 閉まってしまったエレベーターの扉を再度開けて乗り込む。

 ――きっとお母さん、喜ぶだろうな。

 母の喜ぶ顔を想像しながら、私は第二の社会人人生の始まりに胸を躍らせていた。

 面接を終えたその足で、母が同居する伯母の家まで向かう。

 会社からは電車で二時間。仕事が始まると、頻繁に通うことは難しい距離だ。

 スーツ姿のままだったけれど、そんなことよりも母の顔を見て、新しい仕事が決まったことを伝えたかった。

 私は駅前で母と伯母の好物であるプリンを買うと、電車に飛び乗った。
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