【完】キミは夢想花*
「椿様はここに、自分のせいで亡くなられた人間にロウソクを灯しているのです。ほら」
そう言われ、顔を上げればロウソク1つ1つに灯りを灯す、彼の姿が小さく視界に映った。
彼の灯す灯りは、数え切れない程沢山あり無限に広がっている。
「ワタクシ達は、この世界……暮らす場所を守るためにも、人を殺さなくてはならないのです。そのため、殺すということに対して、全く偏見がないことが事実です」
初めて聞いた、この世界の少し詳しい事情。
「人はワタクシ達の存在を酷く恐れています。それは、妖も同様。人は恐れている物を排除しようと、ワタクシ達の世界を壊しに来る。だから、ワタクシ達は守るためにも人を殺すのです」
結さんの言葉は人間の私には耳が痛い。
確かに人間は、恐れている物に対して排除に動く。
人間は自分たちの存在が1番だと勘違いもしている。
だからこそ、不安な要素を取り除きに動くのだ。
「ですが、椿様は違います」
「違う……?」
「椿様は出来ることなら人を殺したくないのです。常に、殺さずに済む方法を考えている。けれど、この妖の世界を牛耳る立場。それは椿様が生まれたと同時に言い渡された使命。決して逆らうことの出来ない、この世界を守らなければならない存在」
その話を聞いて、私の知っている彼は、少なくとも虚像ではなかったんだと感じた。
「彼の美しさは、この世界の者を魅了する。その美しさに、憧れる者も多い。けれど、美しさの奥に隠された、彼の心はボロボロなのです。美しさとは、この世界にとって残酷なものに過ぎない」
椿の話を聞くと同時に、私は彼の姿を1つ1つ思い出す。
温かい思い出。
悲しい思い出。
彼の真の言葉の意味。
それらを思い出せば出すほど、私の目からは涙が止めどなく溢れ落ちる。