【完】キミは夢想花*
「そんなある日、椿様は1人の赤子を救ったのです」
「赤子…」
「ええ。その日は、後にも先にも酷い夜でした。辺り一面火の海。多くの人が殺され、仲間も大勢殺されました。赤子は燃え盛る民家の中にポツンと置き去り。親は子を置いて先に逃げ、その先で別の妖に殺されたそうです」
結さんの話す昔話は、私が想像できないほどのスケールの大きさ。
今のご時世、辺り一面火の海とか、漫画の世界でしか知らない出来事。
「その赤子はそのまま民家の中に居れば、焼き死んでいたことでしょう。また、妖に見つかれば間違いなく殺されたに違いない。けれど椿様は、赤子を見捨てることも、殺すこともせず……この世界に連れこんだのです」
「この世界に……」
人の赤ちゃんがいた──
「赤子は無事に助かりました。ですが、すぐに赤子の存在は皆に知れ渡り……罰として椿様はある契約を結ばされたのです」
ゴクンッ──
固唾を呑み、次の言葉を待つ。
「その赤子が死ぬ時、共に生き途絶えること。どんなに本人が傷を負っても、その赤子が死なない限り、決して椿様は死なない。いわゆる、期限付きの不死身の体なのです」
その話を聞いて、あの日…亜子が椿を刺した時、出血が酷かったのに死ななかったことを思い出した。
「なにか思い当たる節がおありなようで」
「……」
結さんの言葉に私はおう反応すれば良いのかわからず、黙り込んだ。
「では、話の続きを。椿様は、赤子に名を付けました」