【完】キミは夢想花*
「私が今日誕生日だってこと...知ってるの?」
ハッキリと椿に問いかける。
すると彼はく細くすらっとした指を口の前に立て、
「秘密」
と言った。
私の問いに答えは返ってこなかった。
〝秘密〟
秘密にするほどのことじゃないように感じる。
けれどしつこく尋ねるほどでもない。
「蓮、おめでとう」
椿は私が誕生日だということを元々知っていたのか、それとも今の私の言葉を聞いてなのか、私に祝福の言葉を贈った。
彼は柔らかく笑っていた。
「ありがとう」
だから私も負けじと笑顔を彼に向ける。
「じゃあ、ボクは帰らなくちゃ」
いつもなら1時間程度話すところ。
だけど今日は違った。
「そっか...」
「じゃあ、またね」
「うん。これ、大切にする」
「ははっ、ありがとう」
椿は暗闇に姿を消していった──
「私も帰ろっと」
私も河川敷に背を向け、歩き出す。
いつもは寂しい帰り道も、椿からもらったネックレスのおかげかいつもより寂しくなかった。