【完】キミは夢想花*
でも、私は話しかけるのを躊躇ってしまった...
亜子は強く唇を噛み締め、涙を堪えてる様にも、怒っている様にも見える表情で前を向きどこかを睨んでいたのだ。
亜子のそんな表情を見るのはもちろん初めてで、私は思わず狼狽えてしまった。
「......あ...こ......?」
けれどなんとか声を出し、彼女の名前を呼ぶ。
すると彼女は一瞬ハッとした顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「亜子...大丈夫?」
〝大丈夫?〟なんて聞いて、きっと亜子は〝大丈夫だよ〟と答えるだろう。
「うん。大丈夫だよ」
ほらやっぱり。
案の定亜子はそう答えた。
大丈夫?と聞かれて、大丈夫じゃない。なんて答える人はなかなかいない。
そうと分かっていながらも、私は〝大丈夫?〟って言葉以外掛ける言葉が見つからなかったのだ。
この言葉は人を心配しているように見せかけ、相手に無理を強いる言葉。
「なら良かった」
良かったなんて思ってない。
でも、それ以外に私に出来ることは何も無いのが現状。
「......犯人...まだ捕まらないのかな...」
「...蓮は......犯人、どんなヤツだと思う?」
「えっ...!?」
「私はさ、酷いヤツだと思うよ」
そりゃそうだ。
人を殺すなんて酷いヤツに違いないだろう。
じゃなきゃそんな残虐なことをするはずがない。