【完】キミは夢想花*
その姿は一瞬見ただけですぐに分かる。
間違えるはずがない。
細身の体に、フードを被った彼の姿を。
名前を呼ぶと彼はゆっくりと私の方を見た。
その顔を見て、私は胸が締め付けられ傘を落としてしまった──
彼の額からは血が流れ、眉を歪ませていたのだ。
こんなにボロボロなのに、椿の美しさはそれさえも美しく魅せる。
「......椿...」
「.........」
「......どうして泣いてるの?...」
「......泣いて、ないよ」
椿はいつものように優しく微笑んだ。
でもその微笑みは私を哀しくさせる。
「でも......心は泣いてる」
確かに椿は表面上は泣いていない。
でも、その奥のもっと奥。
心は今にも悲鳴を上げて、苦しんで、泣いているように見えたんだ。
「......ボクは平気だよ」
彼は今嘘をついた。
どうして嘘をつく必要があるのか私には分からない。
私の前ではなにも偽ることなく、ありのままの椿でいて欲しいのに。
それは叶わない。
「......どうして、蓮が...泣くの?」
「えっ...?」
そう言われて自分が泣いていることに初めて気が付いた。