【完】キミは夢想花*
椿は優しく微笑んだ。
私はそんな彼を見ることしか出来ない。
「死ぬことを拒むってことは、この世に未練があるってことだ」
「未練...?」
「それは蓮にしか分からないよ」
「私にしか...分からない?」
この世は嫌なことだらけで。
自分の居場所なんてどこにもなくて。
ただ息を潜めるかのように生きていて。
それなのに。
私はこの世に未練があるの?
その時、ポツリポツリと雨が降ってきた──
そう言えば夜に雨が降るって、天気予報のお姉さんが言っていたっけ。
「もしも...」
椿が声を発したので空から彼に視線を移せば、彼はなんとなく泣きそうな顔をしていた。
「死にたいって本気で思った時、その時ボクは蓮と一緒に死ぬよ」
「椿...」
そう言うと彼は私に背を向けた。
「どこ行くの??」
彼の背中は丸まっていて、悲しそうに見える。
「...仕事だよ」
彼は一瞬私の方を向くとそう言ってすぐに背中を向けた。