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部屋に戻るまで、結斗は終始無言だった。

ただ黙々と、何かを考え込んでいるようだった。

ベッドに腰掛けたまま

もうどれだけ経っただろう。

ふと、結斗が顔を上げ、アリアを見つめた。


「何か聞きたいことがあるんでしょ?」


「ぁ…」


「黙っていてごめんね。
君には一つだけ、メモリーしていない記憶があるんだ」


結斗は言う。

アリアは、眉間にしわを寄せ

黙って聞いていた。


「彼…ジン・テレーゼは
僕がフランスに居たときに知り合ったんだ。
親友…って言うのかな?
そしてもう一人…「彼女」はジンの幼馴染みで…」


一呼吸置いて、結斗が言った。


「彼女は、リア・バレンタインは…


…僕の恋人だったんだ…」



「リア…バレンタイン…」




鏡を見ているのかと思った。

瓜二つの「彼女」を、結斗が呼んだ。

「リア」と…

初めて見た、取り乱した結斗の姿。

そう…

そういう事だったのだ。


「でもユイ…「恋人だった」って…?」


「うん。「恋人だった」。
生まれつき身体の弱い子でね。

…死んだんだよ…。
僕とジンはそれを確かに看取ったんだ」


俯いて、顔を隠す。

結斗の表情は見えなかった。


「なのに…どうして…?」


どうしてあの時、リアがいたのか。

それは皆目検討のつかない事。

黙りこくった結斗に

声をかけるなど出来なかった。

ただ側に寄り添い、手を握った。

かすかに、震えているような気がした。
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