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交渉。




――…



翌日、結斗は残っていた仕事の依頼を

全て終わらせるのに忙しかった。

ようやく仕事を終えた時には

陽はすでに傾いていた。


「お疲れ様」


アリアは結斗に暖かい珈琲を手渡した。

それをゆっくりと口に運ぶ。


「まだ腕の傷が完治していないんだから
あんまり無理しないで」


「大丈夫だよ。もう痛みはないから」


「そう…」


軽く腕を動かす結斗を見て

アリアは力なく応えた。

瞬間、部屋に電話の呼び鈴が響いた。


「はい」


『結斗様、お客様です』


「誰?」


『ジン…と名乗っておりますが』


…来た…。

こちらが避けてもやはり無駄か。


『結斗様、いかがいたしましょうか?』


「あぁ…応接室に通して。今から向かう」


カチャ、と電話を置いて

結斗はアリアの方を見た。



「 ? 」


きょとんと見るアリアの瞳と出会った。

結斗は笑いかけて言った。


「父さんと母さんが呼んでるって。
行こうか」


「えぇ」


結斗は部屋を出る。

アリアはその背中を追いかけた。



両親の部屋まで来ると、扉をノックする。

母の声がした。


「あら、ユイ」


「遅くなってごめんね、母さん」


そう言いつつ

結斗は母にアイコンタクトを送っていた。


「せっかくなんだけど
今来客が来たって連絡があったから
そっちを先に済ませてくるよ」


「あら~そうなの、解ったわ。
じゃあアリアちゃん
それまで一緒にお茶しましょ~」


「はい」


アリアを部屋に通し

扉の前には結斗だけが残った。

もちろん、両親に呼ばれてなんかいない。

しかし、母は彼の「言いたい事」を

ちゃんと理解し、対応してくれた。

理由は知らないだろうが…。




とにかく、これで彼に会いに行く事が出来る。
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