桂花の花
尊敬
橙色(とうしょく)色をしたその小さな花は豊かな芳香とともに出迎え入れた季節を遠慮がちに告げてくる。
私は忙しく働く羽虫と同じようにその豊かな芳香に誘われ庭へと踊り出た。
「金木犀ですよね?その木」
私はその問いに「ええ」と答え、竹ぼうきを持って立っている少年に緩く微笑んだ。
少年は軽く私に会釈をするとどこか影のある視線でその橙色色の小さな花を見つめ見た。
その橙色色の小さな花は互いに寄り添うように固まり咲いていた。
この少年は人にして人では持ち得ない力を持っている。
この少年は人に死をもたらす。
この少年は人であり、人ではないモノだ。
「中国では一般的に桂花(けいか)と呼ばれています。花言葉はご存知ですか?」
私の問いに少年は「いえ」と答え、どこか痛むかのように項垂れた。
私は桂花の枝を一つ折り、それを未だ項垂れている少年の前にそっと差し出した。
それに気づいた少年はゆるゆると顔を上げ、それを遠慮がちに受け取った。
心の傷はそう簡単には癒えまい。
私はそんなことを思いつつ着物の袖口から覗いた少年の細い手首を見つめ見た。
少年のその細い手首には数多くの傷痕が刻まれていた。
それが自死を賜ろうとした痕であることは明白だ。
この少年は自分以外の人間に死をもたらす。
そう、それはまるで死神のように・・・。
「謙虚と気高い者。この二つが桂花の花言葉です」
私の言葉に少年は「謙虚と気高い者」と呟いた。
「桂花の芳香は強い。ですが、その強い芳香を放つ花は小さく目立たない。それ故に謙虚。気高い者は雨が降るとその豊かな芳香を惜しむことなく花を散らす潔さからと言われています」
私の回答に少年は神妙な面持ちで頷き、その花を自身の胸元へと引き寄せた。
この少年が一体、どう変わるのか私は楽しみでならない。
この少年は人に死をもたらす。
そして、過去の私もそうだった。
人であり、人ではないモノの辛さはよく知っているつもりだ。
ただ、もう私は人ではない。
人ではない故に興味は増す。
この少年が闇に落ち逝くのかはたまた違う目が出るのか本当に楽しみだ。
「この花の花言葉は先生にぴったりだと俺は思います」
少年のその言葉に私は瞬いた。
そう言った少年の表情は無表情だった。
この少年は酷く表情に乏しい。
それも仕方のないことだと私は了解しているし、表情がないからと言って別段、何の問題もないことだ。
「先生はいつも謙虚で気高い。・・・そんな先生を俺は心から尊敬しています」
少年の口から出たその言葉に私はただ、緩く笑むことしかできなかった。
まさかこの子からそんな言葉が聞けるとは夢にも思っていなかった。
私はますますこの少年に興味が湧いてしまった。
それはまるで桂花が秋風に吹かれ、その豊かな芳香を増す様に密かで妖しいものだった。
嗚呼、本当に人間は面白い・・・。
私は忙しく働く羽虫と同じようにその豊かな芳香に誘われ庭へと踊り出た。
「金木犀ですよね?その木」
私はその問いに「ええ」と答え、竹ぼうきを持って立っている少年に緩く微笑んだ。
少年は軽く私に会釈をするとどこか影のある視線でその橙色色の小さな花を見つめ見た。
その橙色色の小さな花は互いに寄り添うように固まり咲いていた。
この少年は人にして人では持ち得ない力を持っている。
この少年は人に死をもたらす。
この少年は人であり、人ではないモノだ。
「中国では一般的に桂花(けいか)と呼ばれています。花言葉はご存知ですか?」
私の問いに少年は「いえ」と答え、どこか痛むかのように項垂れた。
私は桂花の枝を一つ折り、それを未だ項垂れている少年の前にそっと差し出した。
それに気づいた少年はゆるゆると顔を上げ、それを遠慮がちに受け取った。
心の傷はそう簡単には癒えまい。
私はそんなことを思いつつ着物の袖口から覗いた少年の細い手首を見つめ見た。
少年のその細い手首には数多くの傷痕が刻まれていた。
それが自死を賜ろうとした痕であることは明白だ。
この少年は自分以外の人間に死をもたらす。
そう、それはまるで死神のように・・・。
「謙虚と気高い者。この二つが桂花の花言葉です」
私の言葉に少年は「謙虚と気高い者」と呟いた。
「桂花の芳香は強い。ですが、その強い芳香を放つ花は小さく目立たない。それ故に謙虚。気高い者は雨が降るとその豊かな芳香を惜しむことなく花を散らす潔さからと言われています」
私の回答に少年は神妙な面持ちで頷き、その花を自身の胸元へと引き寄せた。
この少年が一体、どう変わるのか私は楽しみでならない。
この少年は人に死をもたらす。
そして、過去の私もそうだった。
人であり、人ではないモノの辛さはよく知っているつもりだ。
ただ、もう私は人ではない。
人ではない故に興味は増す。
この少年が闇に落ち逝くのかはたまた違う目が出るのか本当に楽しみだ。
「この花の花言葉は先生にぴったりだと俺は思います」
少年のその言葉に私は瞬いた。
そう言った少年の表情は無表情だった。
この少年は酷く表情に乏しい。
それも仕方のないことだと私は了解しているし、表情がないからと言って別段、何の問題もないことだ。
「先生はいつも謙虚で気高い。・・・そんな先生を俺は心から尊敬しています」
少年の口から出たその言葉に私はただ、緩く笑むことしかできなかった。
まさかこの子からそんな言葉が聞けるとは夢にも思っていなかった。
私はますますこの少年に興味が湧いてしまった。
それはまるで桂花が秋風に吹かれ、その豊かな芳香を増す様に密かで妖しいものだった。
嗚呼、本当に人間は面白い・・・。