とあるレンジャーの休日
「私の判断とか治療が直接の死因になったりするのは、怖いよ。だからそうならないように考える。本当にこの判断でいいのか、出来るだけのことをやったか、見落としはないか――」
歩は黙ったまま、彼女の言葉をじっと聞いていた。
「でも……人間は、いつか絶対に死ぬ。そして、その瞬間を選べないってことだけは全員同じなの。自殺する人だってそう。確実に死ねるかどうかは、その瞬間まで分からない」
「失敗する可能性も、ある」
歩の呟きに、紫乃は頷く。
「救急外来には、自殺未遂の患者も、たまに運ばれてくるよ。どんなに死にたいって言われても、医師は治療する。繰り返し来ようが、何度でも。患者がそれまでどんな風に生きてきたのか、どんな人間で何を思ってるかなんて関係ない。たとえ沢山の人に恨まれるような極悪人でも、助かる可能性のあるうちは、やれることをやる」
すると、歩はしばらく考えて、こんなことを口にした。
「そいつが自分の家族を殺した犯人でも……?」
紫乃は苦笑を浮かべ、「うーん」と唸った。
「そうだなぁ。さすがにそうなったら迷うかも。その人を助けて医師であり続けるか、復讐を遂げて医師でなくなるのか」