とあるレンジャーの休日
「医師じゃ、なくなる?」
紫乃は、歩の真剣な表情を静かに見つめながら、頷いた。
「まだ助かる命を一度でも見殺しにしたら、その時点で、もう医師である資格はなくなると思ってる。資格って、医師免許のことじゃなくてね」
歩は、黙って頷いた。
医師である者が背負う使命――その職業に就く者が、忘れてはいけない役割。
「どんな仕事にも、あるんじゃないかな。使命とか、職業倫理みたいなもの。もちろん自衛官にもね」
すると、歩が暗記した文章を読み上げるみたいに、抑揚のない口調で呟いた。
「"自衛隊の使命は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つことにある。わが国に対する直接及び間接の侵略を未然に防止し、万一侵略が行なわれるときは、これを排除することを主たる任務とする"――」
紫乃は何度か目を瞬かせると、迷いを浮かべる歩の瞳を覗き込んで言った。
「でも、歩のお兄さんが言ったのは、そういうことじゃないよね。国を守るっていうのは、もちろん絶対の使命なんだろうけど……」