とあるレンジャーの休日
彼は目を軽く見開き、紫乃の顔を見て、苦笑いを浮かべた。
「下士官でいたときは、上官の命令と任務に忠実であれば、それで良かったんだ。それが鉄則だから。でも……」
「今度は自分が、上官の立場に変わった」
紫乃が代弁した言葉に、歩は頷いた。
「兄貴に言われて初めて、自分の中にハッキリとした軸がないことに気付いた。俺だけじゃなく、部下の命も一緒に背負って……いざという時、本当に正しい判断を下せるのかって」
今と、これから先の日本において、彼の言う"いざという時"は、どのくらいの頻度で訪れるのか。
人によっては、そんな時が一度も来ないまま、自衛官としての役割を終えることもあるだろう。
でも――
紫乃は、今度は自分が手を伸ばし、歩の髪と頬をそっと撫でた。
自分の中の疑問と迷いに真剣に向き合い、眠れなくなるほど苦しみながら考えている彼を、紫乃はとても愛おしいと思う。
歩は、彼女の手に自分の手をそっと重ねて、目をつむった。
「紫乃」