とあるレンジャーの休日



 紫乃が片付けを終えて午前の診療に出てしまい、歩はまた手持ち無沙汰になった。

 外はあいにくの雨。
 濡れるのを気にしなければ走りに行っても良かったが、歩は吾郎のところへ出向いた。

 吾郎は道場の掃除をしており、歩が来たのに気付くと、一言「手伝え」と言った。
 歩は素直に頷き、バケツに水を汲んで、雑巾を固く絞る。
 そのまま一心不乱に畳と床の上を水拭きしていたら、ふと吾郎が訊ねてきた。

「もう眠れるようになったのか?」

「ここに来てからは……なんとか」

 歩は「紫乃のおかげで」という一言を挟みそうになり、寸前で留まった。
 余計な発言は、自らの首を絞める。

「よし、いいだろう。稽古つけてやる」

 吾郎はぶっきらぼうに言うと、道場の奥に置かれたオープン棚から、訓練用のダミーナイフを持ってきた。
 それを歩に渡し、さっそく構えを取る。

「どこからでもいい、かかってこい」

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