とあるレンジャーの休日
ナイフ格闘の練習――そう理解した歩は、雑巾を遠くに置かれたバケツに向かって放り投げた。
そして腰からナイフを取り出した状態のポーズを取り、そこから構えに入る。
一気に集中し、二人の間にはあっという間に張り詰めた空気が漂う。
だが、吾郎に隙はない。
歩はその隙を作り出すために、相手の懐へと突っ込んでいった。
最初に肘を入れにいったら、それを防がれるのと同時に強烈な体当たりを受けた。
体勢が崩れそうになるのを、足の力でどうにか踏みとどまる。
と、そこへ吾郎からの攻撃。
歩は切っ先を反射的に避けながら、ナイフが握られた腕を取り、関節技を決めにいった。
だが吾郎はそれを力ずくで反対側へひっくり返し、逆に歩は肩を捻られてしまう。
「ぐっ……ぁっ」
「まだ甘い。お前は技を綺麗に決めようとし過ぎるな。競技の癖が残ってるんだ」
痛みが残るようになる前に、吾郎は歩の腕を放した。
「型はもう身体に染み付いているだろう。これからは、それを効率よく崩すことを考えろ」