とあるレンジャーの休日

「もし現場に出たら、いかに卑劣な手段を取るか考えろ。敵に敬意を払う必要はない。殺されたら、そこでお終いだ」

 吾郎の言葉に、歩は息を呑んだ。

 "敵に敬意を払う必要はない"

「それって……迷わず殺しにいけってことですよね」

 歩が呟くと、吾郎は躊躇なく頷いて言った。

「当然だ。自衛官は盾だぞ。お前が折れれば、隣にいる部下が死ぬ。全員やられれば、最後は国民が死ぬことになる」

 その迷いのない言葉に、歩は打ちのめされた。
 頭では分かっているつもりなのだ。
 だが、心の奥底の迷いは、どうしても消えてくれない。

 歩は畳にうつ伏せながら呟いた。

「俺が殺す相手にも……家族がいる」

 でも吾郎はあっさりこう答えて、身体を起こした。

「だろうな。兵士も人間だ。人間は一人では生まれてこられない」

 歩は顔を上げ、ゆっくりと起き上がる。
 吾郎は大きな手で歩の頭を掴むと、それを乱暴にガシガシと撫でた。

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