とあるレンジャーの休日
「優先順位をつけろ、歩。お前には、他の何を犠牲にしてもいいから守りたいものは、ないのか?」
(他の何を犠牲にしても――?)
眉根を寄せて俯く歩を見て、吾郎はため息を吐きながら微笑むと、それきり黙って道場を出て行ってしまった。
残された歩は、その場で一人、膝を丸めて考える。
――守りたいものとは、なんだろうか。
大事な人……例えば家族、親しい友人、苦楽を共にする同僚たち。
(あとは恋人、とか?)
ふいに紫乃の顔が浮かび、歩は誰もいないのに、焦って周囲を見回した。
当然ながら道場には誰もおらず、彼は安堵の息を吐くと、畳の上にパタンと倒れ込んで、母屋より高い天井を見上げる。
改めて考えてみるまでもなく、身近にいる誰もが、歩にとっては、とても大切だった。
もしかしたら自分自身よりも。
それは、昔からずっとそうだ。
彼らを守るためならば、どんな危険な場所にだって、きっと飛び込んで行ける。