とあるレンジャーの休日

 そのまま静かになった清二郎から、紫乃はおそるおそる歩に視線を移す。
 彼は何事もなかったかのように、茶碗と箸をテーブルに並べていた。

(さっきの……もしかして、キスするつもりだった?)

 まさか、と思う気持ちと、でも、と思う気持ちが交錯する。
 もしそうだとしたら、歩はなぜ……?

 紫乃は昨日、彼から手をつながれたり膝枕をねだられたりしたことを思い出し、そこで初めて、もしかしたらと思い立った。
――歩は自分に、特別な好意を抱いているのではないか、と。

 紫乃は最初から、自分が年上だから、遠慮なく甘えられているだけだと思っていた。

(刷り込みの話もあったし……)

 歩は元から人懐っこい性格のようだし、悩んでいる時を除けば、明るくて元気もいい。
 だから、そういった雰囲気を感じにくかった。
 そして紫乃自身が、彼のことをあまり男性として意識しないよう、自制していたのもある。

「紫乃?」

「ひぁっい」

< 128 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop