とあるレンジャーの休日
「いや、だって父さんが……」
紫乃が吾郎に目をやると、歩も後ろを振り返って、ニコリと笑った。
「吾郎せんせーっ、俺、晩ごはんの支度してきます!」
「ああ?」
吾郎の表情がますます険しくなる。
だが歩は全く気にせず、そのまま紫乃の腕を引いて、道場を後にした。
「ちょっと、こら!」
紫乃が焦って腕を引くと、歩は、むうっとふくれっ面をして呟いた。
「今日、全然一緒にいられてない。この時間くらい一人占めしたっていいだろ。夜はまた診察行っちゃうんだから」
彼の言葉に、紫乃は目を丸くする。
「一人占めって。寝るときは一緒にいるじゃない」
そう答えた彼女は、直後にハッとした。
こんなこと、うっかり父や祖父に聞かれたら、とんでもない誤解を生みそうである。
家の中での発言は、慎重にしなくては――
だが歩は、ふくれっ面のまま首を横に振った。