とあるレンジャーの休日

 振り返ったら、開け放した居間のドア枠のところに吾郎が立っており、眉間にシワを寄せてこちらを睨んでいる。

「夕飯の支度はどうした、歩。手が止まってるぞ」

 吾郎はそう言って居間に入ってくると、キッチンに立つ歩を睨みながら、ソファの前で仁王立ちになった。

 おかげで歩だけでなく紫乃まで無駄に緊張しながら、夕飯の支度を再開する。

「父さん……道場は?」

 紫乃が問いかけても、吾郎は歩の方を睨んだまま答えた。

「宗春が見ている」

「ハルくんが? え、仕事は?」

 今は16時前。サラリーマンである宗春が来る時間でも、曜日でもなかった。

 紫乃が首を捻ると、吾郎は苦り切った表情を浮かべ、「どいつもこいつも」と呟く。
 そうして、黙々と手伝いをする歩に向かって、忌々しげに言った。

「お前も、支度が終わったら道場に戻れ」

 結局、何をしに来たのか分からないまま、吾郎は道場へ帰って行った。

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