とあるレンジャーの休日

「でもっ……!」

「お前は今、冷静さを欠いている。歩と一緒に後から来い。いいな」

 冷静さを欠いている――

 紫乃は反論出来なかった。
 まだ全身が震え、歩に身体を支えられて立っている状態だ。
 これでは、例えついて行っても静脈のルート確保すらままならない。

 悔しさに顔を歪めると、清二郎は歩に向かって「頼んだぞ」と声をかけてから、走り出した。






 玄関のドアが閉まり、外からは救急車がサイレンを鳴らして走り出す音が聞こえる。

 歩は、腕の中で震える紫乃の身体を、苦しくない程度にしっかり抱きしめ、背中を繰り返しさすった。
 いくら彼女が医師であろうと、身内同然の存在を目の前で失いそうになり、冷静でいられるはずがない。

 妻をも見送った清二郎とは違い、紫乃はまだ20代だ。
 医師になってまだ数年である。

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