とあるレンジャーの休日
――事故の時、自分が一緒にいれば、何か出来たのではないか。
朝起きたとき、兄が少し気怠そうにしていたのを、もっと真剣に気遣っていれば、事故を避けられたのではないか。
いくら考えても詮ないことだとわかっていても、考えてしまう。
時間にしてほんの数分。
紫乃はひとしきり泣いた後、自分で涙を拭い、歩の腕の中でゆっくり顔を上げた。
「ごめんね。もう、大丈夫」
歩は、彼女の背中を優しく撫でて、腕の力を抜いた。
紫乃は頬を緩ませ、彼を見つめる。
「さっき凄かったね、歩。格好良かった」
「へ……何が?」
首を傾げる彼に、紫乃は微笑んだ。
「ベランダに上がった時。あっという間でビックリした」
「ああ」
歩は、身軽さには自信があった。
トレーニングも兼ねたボルダリングにハマってからは、登れそうな場所を見つけては、片っ端から挑戦したりしていた。
そのため、民家の二階のベランダに上がるくらいは、朝飯前と言える。