とあるレンジャーの休日

「俺、一番量が多いやつ!」

 清水も紫乃も、目を丸くし、大きな声で笑った。

「まかしとけ! すぐ作ってやる」

 紫乃がクククと笑っていたら、歩はカウンターテーブルに額をつけ、力の抜けた声を漏らした。

「そろそろ空腹が限界……。なぁ、紫乃。明日も休みだよね?」

「そうだよ」

「じゃあ今度こそ、ゆっくりデートな」

 彼は、紫乃以外には聞こえないくらい小さな声でそう囁き、優しい目をして微笑んだ。
 それを見た紫乃は、なぜか一瞬泣きそうになり、自分の感情がよく分からず混乱する。

(なんだろう、これ)

 ずっと遠く離れていた、懐かしい感情。
 嬉しいはずなのに、苦しくて胸が痛いなんて――

 カウンターの下でコッソリ握られた手を、紫乃はそっと握り返した。
 彼女は赤くなった顔を誰にも見られないように背けると、俯いて静かに唇を噛んだ。


< 187 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop