とあるレンジャーの休日
歩が離そうとしないので、紫乃は抵抗するのを止め、彼の胸に額を押しつけた。
彼は紫乃の身体をしっかりと抱きしめながら、何も言わず黙って背中を撫で続ける。
紫乃の心は、清二郎の体調に対する心配と不安、そしてすぐ近くにいたにも関わらず、不調に気付けなかった自分の不甲斐なさを悔やむ気持ちでいっぱいだった。
(母さんと約束したのに……)
紫乃は小さい頃から身体が弱く、それを心配した父は自衛官を辞め、道場を開いた。
紫乃が成人して医師になると、母はずっと望んでいたNGO活動に参加することを決めた。
紫乃は、両親が本当にやりたい仕事や望みを、自分のために犠牲にしてきたことを知っている。
だから、母を送り出すときに言ったのだ。
――家のことは何も心配せず、任せて欲しいと。
父や祖父のことも、今度は自分が守るからね、と。
(なのに、私はいつも肝心なことに気付けない)
悔しくて、情けなくて――
紫乃は次々と湧き出す涙をなんとか堪えようとしたが、歩の腕の中では、どうにもならなかった。
ようやく涙が止まり、紫乃は濡れてしまったパジャマの袖と歩のシャツを気にしながら、顔を上げる。