とあるレンジャーの休日

 二年前まで都内の大学病院に勤務していた紫乃は、退職と同時に、ここで嘱託医のバイトを始めた。
 週に三日、それも午後の数時間のみの勤務。
 それ以外の時間は、祖父が開いた小さな診療所で患者を診ている。

 祖父は二年前の冬、同居していた紫乃に、「診療を手伝って欲しい」と話を持ちかけてきた。
 祖父も高齢になり、連日一人で大勢の患者を診るのが、しんどくなってきたらしい。

 大学にいると、医師は日々の診療と並行し、多大な業務に追われる。
 研究に教育、そして膨大な事務作業。

 比較的重症の患者が集まりやすい大学病院では、多様な症例や、先進医療に触れる機会は多い。
 その代わり、一人の患者をじっくり診ることができない。

 まれに特異な疾患の患者を、研究と治療のため、継続して追いかけることはある。
 だが一般的な疾患の場合、紹介を受けて検査や手術をしたら、一定のフォローアップ後、紹介元の病院や診療所へ戻すのが普通だった。

 診療と研究はどちらも重要で密接な、切り離すことの出来ないものだ。
 でも紫乃は、どちらかと言えば診療に重きを置くタイプの医師だった。

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