とあるレンジャーの休日

「歩って……」

「ん?」

 顔を覗き込まれ、紫乃はその距離の近さに焦って首を横に振る。

「なんでもないっ、もう着替えるから! 朝ごはん作らなきゃ……」

 歩は軽く肩をすくめると、「今日デートだからな」と念を押してから、部屋を出て行った。

(意外と押しが強い)

 歩の見た目と、人懐っこい態度に誤魔化されそうになるが、中身はしっかり年相応の男性なのだ。
 特に恋愛面での経験値は、完全に逆転している。
 彼の経験が多いのではなく、紫乃のそれが少なすぎるのだが。

 一人になった彼女は深いため息を吐き、ベッドに腰掛けた。

 清二郎のことは、歩の言うとおり、後悔しても仕方ない。
 それよりも、これから何が出来るのか考え、自分にやれることを精一杯やるほうがずっと大事だ。

 当面は、明日以降の精密検査の結果を待つこと。
 そして平日の診療に大きな支障が出ないようにすることが、紫乃の役割である。

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