とあるレンジャーの休日

(もし遠くに離れたら)

 紫乃は、歩が部隊に戻り、家を出て行く場面を想像した。
 すると、それだけでもう急激に寂しくなってきてしまう。

 握られた手を思わず握り返すと、歩が驚いた顔をして、紫乃の顔を覗き込む。

「どうしたの? 珍しいね」

「何が?」

「握り返してくるなんて」

 どことなく嬉しそうな彼を見て、紫乃はまた胸に軽い痛みを感じた。

 もしこのまま彼と、なしくずしに付き合ってしまったら――
 その先のツラさが容易に想像でき、紫乃の心には躊躇いの気持ちが強く湧いてくる。

(これ以上、深入りしない方がいいのかもしれない)

 歩には早く立ち直ってもらいたい。
 彼のこれまでの努力、恵まれた資質、周囲からの期待の大きさ。
 今抱えている悩みだって、きっとぶつかるべき必要な壁なのだ。
 そして彼は、それを乗り越え、さらに逞しくなっていく。

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