とあるレンジャーの休日
「ねえ、さっきのボル……なんとかって、なあに?」
そう訊くと、彼は目をパチクリさせて、なにやら手を招き猫のように動かして見せた。
「ボルダリング。こうやって壁登るやつ、知らない? スポーツクライミングって、オリンピック競技にも採用されたんだよ。突起とか、凹凸のある壁をロープなしで登っていくんだ」
「ああ……見たことあるかも」
カラフルな取っ手がやたらとくっついている遊具を、公園などでも見かけたことがある。
「それが好きなの?」
「うん。トレーニングで始めたら、ハマっちゃってさ」
紫乃は頭の中で壁をよじ登る歩の姿を想像し、ゴクリと唾を飲んだ。
自分が登ろうとは露ほども思わないが、彼が登るのを眺めているのは、きっと至福のひとときだろう。
メニューを見ながら悩む彼を見つめ、紫乃は真剣な表情で切り出した。
「出来たら、登るときはTシャツ一枚になって欲しい」
「いいよ」
歩は気安くそう言って頷き、ニヤリと笑った。