とあるレンジャーの休日
歩は少しだけ躊躇いを見せつつ、正直に「自衛官」と答えた。
すると、トレーナーの彼は納得いった表情で頷く。
「なるほどね。身体だけ見たら、競技選手かと思ったよ」
それでも一応、上級向けへのトライは実力を見てからということになり、歩は中級向けの壁を登る準備を始めた。
そこでは、まだ若い中高生くらいの男の子と、おそらく二十代の女性が、壁に張り付いている。
だが二人とも、少し上がっては落ちてを繰り返しており、なかなか上までたどり着けないようだった。
「初見でいける? ルート教えようか」
トレーナーの彼が笑いながら、声をかける。
歩は、負けず嫌いに火がついたのか、不敵な笑みを見せて「いらない」と言い切った。
歩は軽く屈伸して、手にチョークと呼ばれる滑り止めの白い粉を付ける。
ほぼ垂直から手前に前傾している壁を見つめて、「よし!」と声を上げた。
歩は紫乃を振り返り、目が合ってニコリと笑った。
「見ててね」
「うん。頑張って!」