とあるレンジャーの休日

 歩が驚くのと同時に、施設トレーナーが三人ほど近付いてきて、彼を取り囲んだ。
 質問責めにあいながらも、彼は必死で紫乃のほうを振り返る。

「今の、どっち?」

――歩自身か、身体に、なのか。
 彼はまだ、紫乃の嗜好を完全には理解しきれていない。

(マニアの愛は性癖と一緒なの)

 紫乃にとっては、どちらも必要不可欠だ。

 トレーナーたちとなんだかんだ楽しそうに話をしている彼を見ながら、紫乃はボソリと呟く。誰にも聞こえないほど、小さな声で。

「できれば、自覚したくなかったなぁ」

 ツラくなるだけだと、分かっているのに――

 次は上級向けにトライすると言う彼を見つめながら、紫乃は、泣いてしまいそうな気持ちを隠して、笑みを浮かべた。

< 220 / 317 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop