とあるレンジャーの休日
21
歩が上級者向けの壁にトライを始めてから、三十分ほど過ぎた。
直前まではいけるものの、未だゴールには到達していない。
というのも、上級者向けの壁は、中級者向けのそれとは様相が全く異なっているからだ。
本当に真っ直ぐな平面のコンクリートが手前に前傾する形で張り出しており、そこに埋め込まれている突起も妙に丸くて平べったく、掴みにくそうな形状をしている。
素人目に見ても、とてもじゃないがこんな壁を、人が登れる気がしない。
でも彼は、わずかな出っ張りと壁の曲がり角を利用しながら、どうにかこうにかゴールに向かって身体を上げていく。
紫乃からすると、もしかしたら歩には、重力が無効なのではないかと疑いたくなるような光景だった。
それでも先ほどとは違い、途中で何度も下に落ちる。