とあるレンジャーの休日
(ああ〜っ、もう)
紫乃は手にしていたワンピースを元に戻して、ピタリと寄り添うようにして立っている歩の顔を見つめた。
低くてもヒールのある靴を履いている紫乃と、歩の顔はとても近い。
目が合ってまたニコッと笑う歩に、紫乃はどうしようもない愛おしさを感じてしまい、困って下を向いた。
すると、歩が耳元に顔を寄せて囁く。
「紫乃。そういう顔、こんな場所でしないで」
「は?」
意味が分からず怪訝な表情を向けたら、彼もなぜか困った顔をして、紫乃の手を取った。
「行こう。自覚がないのが厄介だなぁ」
「なんのこと?」
店から出て、モールの広い通路を手を引かれながら歩く。
歩は向こうから来る人を上手く避けながら、スタスタと先に進んでいった。
紫乃は引っぱられる形で、どうしても小走りになってしまう。