とあるレンジャーの休日
歩はそんなに背が高くない。
日本人男性としては標準的な身長だ。
普通のTシャツにジーンズ。
街中を歩いている人間が、歩の顔を見て振り返ることはあっても、体格が理由でそうすることはないだろう。
だが、紫乃の感覚からすると、彼の身体は目を見張るほどに美しい。
「いいね。小さい頃、何かやってた?」
紫乃がうっとりした眼差しを向けて訊ねると、歩は居心地の悪そうな様子で頷いた。
「近所の道場で、少林寺と居合(いあい)を習ってた」
「お兄さんと一緒に?」
暗に、話は聞いてるということを伝えたら、歩は少しホッとした表情を浮かべた。
「うん。俺が兄貴の後をくっついて、なんでも真似して……競ってた」
「どっちが強かったの?」
「そりゃ、兄貴だよ。俺が勝てたのは持久走と背筋力と、肺活量でしょ。あとは……」
やたらと細かい項目が出てきて、紫乃は目を丸くする。
(これは、相当負けず嫌いだわ)