とあるレンジャーの休日

「うん……ちょっとだけ。明け方になっちゃったけど」

 そう答えたら、一瞬パッと明るくなった紫乃の顔が、すぐに曇ってしまった。

「明け方? それじゃ全然寝れてないじゃない。そのままでいいから、リビングのソファで横になったら?」

 紫乃はこれから着替えて朝食の支度をするのだろう。
 キッチンに彼女の気配があれば眠れるのは実証済みだ。
 眠気が取れない歩は、その言葉に素直に甘えることにした。



 ――コトコト……カチャン、トトトトト……

 紫乃がキッチンで作業している物音が心地よく響く。
 少し懐かしく、安心する音だ。

 落ち着く家の中。
 帰ってくるべき、揺るがない場所――

 親の反対を押し切って入隊してから、節目には実家に戻っても、そこは自分の落ち着ける場所ではなくなっていた。

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