とあるレンジャーの休日

 紫乃が、コポコポと急須を傾ける音がした。

「歩を預かる時、塚本は何て言ってたの?」

「んー……なんだったかな。もう忘れた」

 吾郎の返答に、紫乃は呆れた調子で返す。

「はあ? 何にも聞かずにOKしたってこと?」

「いや、あいつがグチャグチャ細けえこと言うからさ。『なんでもいいから、紫乃の了解を取れ』って言っただけだ」

 すると、紫乃は何かを思い出したように「ああ、それで」と呟いた。

 二人の会話をタヌキ寝入りで聞いていた歩も、それを聞いて思い出した。

 最初に吾郎と対面した日。
 吾郎は道場まで迎えに来た紫乃に、歩のことをこう言ったのだ。

『本当に来るとは思わなかったけどな』

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