とあるレンジャーの休日
松本診療所
03(夜)
徒歩五分の道のりは、あっという間だった。
歩は『松本診療所』と書かれた看板を見上げて、怪訝な表情を浮かべる。
紫乃はクスリと笑いつつ、説明してやった。
「うちのおじいちゃんが『松本』。母さんがその娘で、父さんが『戸ヶ崎』ね」
「――紫乃の親父さんは、お婿さんってこと?」
「そうそう」
"お婿さん"という言葉が、自分の父親のイメージとはあまりにもそぐわず、紫乃はおかしくなって笑った。
歩は、なぜ紫乃が笑っているのか分からず、首を捻る。
古いが造りはしっかりしている建物の横を回り、二人は裏手にある自宅玄関に向かった。
診療所の中を通っても自宅には入れるし、実は近道だ。
でも紫乃が顔を見せると、ご近所さんでもある患者たちに捕まり、なんのかんの話しかけられ、引き留められてしまう。
それを避けるため、紫乃は必ず外を回って、自宅側の玄関から入るようにしていた。
「ただいまー」
一応声はかけるが、この時間には誰もいない。
歩は、紫乃の後から入ってきて、明らかに興味津々といった様子で、周囲を見回している。