とあるレンジャーの休日
「よし! 俺の相手をしろ。――お前らは壁際で待機!」
吾郎が大きく手を払うと、子どもたちが一斉に道場の端に寄った。
皆、何が始まるのかとワクワクした表情をしている。
歩は大きく息を吸い、腕を伸ばして肩を軽く回した。
寝不足は解消しきれていないが、頭はまだスッキリしている。
食べたばかりだが、それは大した問題ではなかった。
「防具がないから、急所への直接攻撃は禁止だ。あとはノールールで、好きなようにかかって来い」
「好きなように……?」
紫乃は、彼を近接格闘術の講師だと言っていた。
近接格闘とは、簡単に言えば一撃必殺。
銃剣が無ければ素手で急所をピンポイントに狙い、相手を仕留めるのが極意である。
(今、教えてるのは合気道か――)
合気道というのは、総合武術だ。
投げ技、固め技が中心だが、本来は打撃に絞め技、武器術も含まれる。
吾郎がどの辺りを得意とするのか分からない。
だが歩は、彼に力を試されているのだと理解し、軽く腰を落として構えを取った。