とあるレンジャーの休日

 歩の表情を見て、吾郎は嬉しそうに笑った。
 だが油断のない鋭い眼差しは、歩の動きを微細漏らさずに捉えている。

 歩は軽く息を吐いて止め、最初の一歩を踏み出した。
 一気に距離を縮めると、およそあり得ない角度から足を蹴り上げてみせる。
 吾郎は咄嗟にそれを前腕で防いだ。
 歩は素早く身体を返すと、空いた脇腹に再び蹴りを入れる。

 二打目は確かに吾郎の横腹に入った。
 だが歩はその硬さに驚く。
 間髪入れずに腕を取って、返しからの関節技をかけようとした。
 だが、それも逆に返されてしまう。
 型にこだわらない歩は素早く腕を抜くと、そのまま体当たりし、吾郎がバランスを崩すのに合わせて足技をかけに行った。

 吾郎はなぜか素直に後ろに倒れ込むと、絞め技に入ろうとした歩の身体を強引に持ち上げてひっくり返した。

「わっ!」

「俺を試そうなんて十年早いぞ。フィジカルで負ける相手に、力で勝負しようとするな」

 吾郎は咄嗟に逃げようとした歩の身体をあり得ないほど強い力で抑え込むと、彼がかけようとした絞め技を逆に繰り出してきた。

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