とあるレンジャーの休日

 通路を抜け、少しだけ開いたドアから中を覗く。

 この時間、子どもたちは帰り、社会人向けの格闘教室に変わる。
 生徒は現役の自衛官から警備員、ミリタリーマニアやサバイバルゲーム好きな一般人などだ。彼らは父に自衛隊格闘術の基礎を習いに来ている。

 見ると、生徒は四人ほど。
 奥に吾郎が合気道の道着のまま立っており、その前で、なぜか歩と坂下宗春(むねはる)が向かい合っていた。

 宗春は、道場の向かい二軒隣に実家がある、紫乃の幼なじみである。
 彼女の一つ上で今年30歳。
 幼い頃から吾郎の道場に通い、今はサラリーマンをしながら、時々ここの教室を手伝っていた。

(なんでハルくんと歩が……?)

 二人はそれぞれに礼をして構えを取ると、吾郎の「始め!」の声と同時に乱捕りを始める。

 基本は歩が攻撃を仕掛け、宗春がそれを受けて返していた。
 歩のスピードはさすがに早かったが、紫乃はその動きに違和感を覚える。

――思っていたほどじゃない。
 あの身体つきを見た時には、もっと目を見張るほどの俊敏さが想像できたのに……

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