とあるレンジャーの休日
「えっ、自分で?」
彼は戸惑いながら立ち上がり、言われるまま洗面台に近づく。
痛みを警戒して顔をしかめつつも、捻った蛇口から流れ落ちる水に、傷口を晒した。
「いっ、つ……」
「戻るまで、そのままね」
そういい残して、紫乃は薬を保管してある、隣の部屋の鍵を開けた。
この部屋の管理者は、なぜかバイトでしかないはずの紫乃の名前になっている。
(他にいないのは確かだけど――)
防衛医大を出た医務官は、すべての自衛隊下にある病院や基地に行き渡るほど数がいない。
人手は常に不足している。
たとえバイトであろうと、駐屯地に医者がいるだけマシなのだ。
抗生剤を手にした紫乃が診察室に戻ると、ちょうど看護師の薫子が出勤してきた。
「おはようございまーす、紫乃先生」
高く朗らかな声が響く。