とあるレンジャーの休日
母屋の一階には、清二郎の部屋とキッチンや居間。
お風呂場とトイレがある。
二階は三部屋で、その内の一つが紫乃の部屋だった。
それ以外は空いていて、これまで二階は実質、彼女だけの空間であった。
23時を回り、紫乃は開いていた本を閉じて、お手洗いに向かった。
戻ってきて廊下を歩きながら、ふと歩の様子が気にかかる。
――多分眠れている、はずだけれど。
歩の部屋の前で立ち止まり、紫乃はほんの一時迷った末、囁くように小さく声をかけた。
「歩……?」
しばらく待っても何も聞こえなかったので、紫乃は軽くため息を吐き、足を踏み出した。
だがその時、本当に微かな彼の声が、ふと耳に入ってくる。
「紫乃――?」
足を止め、紫乃はもう一度「開けるよ」と囁いてから、躊躇いがちにドアノブを回した。
歩はベランダ側の障子を開け放し、月明かりの中、敷いた布団の上で膝を抱えて丸まっていた。
そしてゆっくり顔を上げると、紫乃の顔を見上げて静かに笑う。